victorの話

実家には50年程前のアップライトピアノがあるんですが、マニアックなVictor製です。
調べてみるとビクターが浜松のどこかのピアノメーカーに作らせて販売していたようです。

このピアノは母が幼稚園の先生を目指すという事で亡き母方の祖父母が「ピアノが弾けないと先生になれないから」と、母のために買ってくれたものとか。当時では相当気合の入ったプレゼントだったと思います。
半世紀くらい前の話ですね。

小さい頃の自分は全くスポーツも習い事もやりたがらなかった中、たまに遊んで弾いているピアノを思ったのか「ピアノならやる」という事でピアノを習い始めたそうです。
これが30年くらい前の話ですね。

それから惰性なところもありつつ高校くらいまでピアノをやってました。一向に上達しませんでしたが。
しかし音楽好きの切欠となり、ベースを弾き始めてバンドしたりして、、、で、今に至るので、今の自分があるのはこのピアノがあったからと言っても過言ではないかもしれません。

先日、父方の祖父3回忌を終え、色々な事情も相まって家を解体・建て替えする事となりました。
事の決断を90過ぎの祖母がしたというのは恐れ入ります。普通90も過ぎたら「この家で最期を迎えたい」とか言いそうなもんですが、率先して建て替えを決めたという。
ウチの母、家族のことを考えてるんだろうなーと察します。ありがたいことです。

それは置いといて。
この建て替えにあたり色々な物を処分しているのですが、ピアノも処分するかもしれないとのこと。

・移動、保管、調律、これらコストが馬鹿にならない
・今となっては大して弾く人が居ない
・いっそ電子ピアノでも買った方が安くつく

母は、思い出を取るか、現実的なコストを考えるか、という事で迷っているようです。
個人的には勿体ないとか大事な思い出のものでは?とか思いますが、最終的な判断は母に任せることにしています。

さて、先日が母方の祖父母の法事のため実家解体前、最後の帰省となりました。
帰省しても法事以外の時間は家の中の整理に追われてしまう感じでしたが、日曜夜に帰る直前、もしかして最後になるかもと思いピアノを弾くことにしました。
こっそりと。

まずはハノンで暖気・・・すらできず。全く左右の指がかみ合わない。
とりあえず子供の頃何故か好きだったバイエル8番や60番を弾いてみたり、バカの一つ覚えのようにずっと弾いていたバッハのインベンション4番をやってみたり。
しかし、そのインベンション4番もさっぱり弾けませんw

流石、練習不足。チャリ漕いでばっかりいるからだな。
しかし、階下では甥姪が大騒ぎしているのと、ピアノが置かれた2階には誰も居なかったので、どれだけ悲惨な演奏でも恥ずかしくありません。

日中のドタバタが嘘のようにシーンとした元自分の部屋で、改めて音を鳴らしてみると「こんな良い音するんだなあ」と今更気が付きました。酷く今更です。
独特の木の鳴り、打鍵したときのハンマーの動き、感触。余韻まで耳を澄ましていると色んな響きが聴こえてきます。今は電子ピアノも相当良い線まで進化していて本物に肉薄した音色とタッチを再現していますが、この何とも表現し難い感じはどうやっても再現出来ないだろうと思いました。
、、、もっとも、名器と言われる物の音色とはまるで違うかと思いますが。

それにしても余りに弾けないのでせめてミスらないところで締めようと思い、インベンション4番の途中の部分までやってお終いに。
フェルトを鍵盤に被せて蓋をしてお終い。

このピアノ、母の判断次第なので「やっぱり残しておく」となるかもしれませんし、次に実家に帰った時はもう木の破片となっているかもしれません。

もしかして、もうあのピアノを弾けないかもと思うと、、、解体される家なんかより実はよっぽど寂しいもんです。
しかし仕方ないです。流石にピアノを家で引き取るわけにもいかないし、どうにもね。

ただ一つ言えるのは、スタインウェイよりもベーゼンドルファーよりもベヒシュタインよりもヤマハよりもカワイよりも、このビクターのピアノは良いピアノです。
「でした」かな?

とりあえず、ありがとう。

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